脳外科医 竹田くん

あり得ない脳神経外科医 竹田くんの物語

第一部の古荒先生のセリフを改変した理由

 当初、この漫画は第一部のみで構成されていました。

 

 第一部では、背景となる世界観は単純化され解像度が極めて低いです。登場人物も限られており、登場人物の各人が本来の登場人物としての行動以外に、架空世界の設定の解説係も担わされています。(医療の安全を崩壊させている竹田くん自身が市民病院の医療安全部門のレベルの低さを評価するシーンなどがその代表例です。)古荒先生も、本来の登場人物としての役割以外に、病院全体の集合意識として登場してセリフを吐いたり、竹田くん以外の全人類代表として竹田くんに対して不安を吐露するセリフを吐いたりします。

 

 漫才で言うと、竹田くんがボケで、古荒先生がツッコミの係です。物語を進行する上での必要な、要所要所で竹田くんの行動にツッコミを入れて解説する役目を古荒先生というキャラクターが多く担っていたのです。

 

 また、麻酔医やオペ看、放射線技師たちも登場はしないものの古荒先生と同じように繰り返される失敗の光景を見ていて放置しています。そうした人間たちの無作為も漫画世界における古荒先生というキャラクターが一身に背負わされています。

 

 古荒先生が解説者や病院全体の集合体としての役割を担う事で、なぜ気づいているなら注意しないの?古荒医師が失敗が分かっていて放置しているの?という認識が読者の中に必要以上に生じやすくなっています。

 

 ですが、古荒先生がその時点の自分を(読者の様に)神の視点から見ているわけではないので、自分たちがどんな泥沼にはまっているか認識できていないのです。また、病院で働く人々は、一種の空気や流れの中で生きているので、竹田くんが自我全開でグイグイと強引に作ってゆく流れ・空気に読者が思っているほど容易には逆らえません。

 

※医療関係者であれば、このような状況を理解しやすいと思います。

 

 第一部はその病院全体がはまった泥沼を描く事を目的としておらず、ストーリーをテンポよく進めて医療事故の全体像や全体的な構図を見せる事が優先です。

 

  第二部になると、背景となる世界観がサイコサスペンス的なストーリー展開にふさわしいように解像度を増して現実味を帯びてきます。そこでは竹田くんや古荒先生は解説係の役割がなくなり、人格の集合体としてのセリフは無くなり、完全に独立した登場人物としての行動しかしなくなります。

 

 そこではじめて、古荒医師がはまった泥沼の正体が見えてきます。

 

 極端に言えば、第一部は「アンパンマン」レベルの人間関係しか生じない単純世界だったのに、第二部は登場人物の名前はそのままでいきなり「闇金ウシジマ君」みたいな複雑でリアルな人間関係の世界に変わるのです。

 

 このような構成である以上、第一部と第二部を連続して読めば読者が混乱をきたすのは当然かと思います。(もちろん、作者の暗黙の了解をくみ取って頂き、そのままでも理解して読んでおられる方が大半かと思いますが・・・読者層が多様になるにつれ誤解も生じやすくなってくるかと思います。)

 

 修正を行う事で漫画自体の尖がった部分が丸みを帯び面白みは減り平凡な作品に近づくと思いますが、作品全体としてより正確な受け取られ方がされるように少しづつ改善してゆこうと思っています。

 

これまでも過去のページを振り返ってその都度、物語全体としての整合性を保つために大幅な修正やキャラクターの変更などを行ってきました。過去には、不要と判断してバッサリ削除されてしまったページが何ページもあります。※これからも行います。

 

修正箇所には『更新履歴』として注釈をつけております。また修正に至った作者の心情をなるだけ書き残しているのでそれも含めてtwitterなどで意見を交換し合って楽しんで頂ければと思います。

 

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 余談

 

 第一部を描いているときの心境を思い出すと、「脳外チームがチームとして手術を行っている」という記述から始めて「俺だけに事故の責任があるんじゃない。」という竹田くんの声なき声に寄り添った構成になっています。医療事故は執刀医のみが全責任を被る事が多いですのでそういう内容にしたくなかった。竹田くん以外の人たちの責任を浮かび上がらせたかったのです。読者の反応を見る限りその意図は成功しているようです。

 

 竹田くんの登場シーンは純粋無垢な20代後半ぐらいの男性のイメージとして設定されています。読者が「自分も竹田くんになるかも」と感情移入できる存在として竹田くんを登場させました。最初はまっさらな新兵のように登場しますが、徐々に過去に一体何をやってきたんだという真相が明かされます。

 

 第二部で作品の解像度が高まると実は純粋無垢に見えた竹田くんは権謀術数をめぐらす老練な人物であった事が明かされます。第二部を描く作者の心境は、世間知らずな古荒先生が謀略戦の天才である竹田くんにジワジワと陥れられてゆく過程を手に汗握るサスペンスドラマとして描きたかった。

 

 つまり第一部は竹田くんに感情移入、第二部は古荒先生に感情移入しています(どちらかと言えば)。作者自身は、(被害者の視点を無視すれば)竹田くんと古荒先生はどちらが善でも悪でも無いと思っています。次元の違う世界に生きるものが、互いに精一杯生きた結果、化学反応が生じて何かしらの結果に至っているという解釈です。

 

 被害者の視点を最小限にとどめた理由は、お医者さんや看護師、技師さんなどに「ああこんな医者いるいる」と楽しみながら読んで頂きたかったからです。実際、職業人の視点からこの漫画を見れば善悪の物語ではなく、ヒューマンエラーを減らすための教訓話として受け取られているように感じます。それは作者の意図したところです。

 

 軽い気持ちで読めるようにドジな登場人物たちが織り成す滑稽な展開の漫画として描いたつもりがショッキングなホラー漫画・リアルな漫画として受け取られた事はとても意外でした。被害者やその家族の視点でこの物語を描けば医療版「はだしのゲン」のような内容になってしまい、悲惨過ぎて誰も読めないと自信を持って断言できます。

 

 作品の端々に読者の方々に予想外の誤解を生んでいる部分があれば今後も柔軟に修正して行きたいと思っています。