不破弁護士は一旦去ったが、また必ずやって来る。
院長は孤独だった。ただでさえ、院内政治を隠然と支配する『古(いにしえ)のもの』に院長は疎まれていた。パワハラ裁判、医療事故公表などの失点は、立場を危うくする。
また、パワハラ裁判になれば、竹田くんの連続医療事故を反証として提出する事になり、その過程で、連続医療事故が脳外科学会にバレるだろう。
そうなれば、怖い事が起こる。脳外科学会のトップは、まずい事に大学医局のトップなのだ。その頂点におられる方の逆鱗に触れれば、医師の派遣停止・あるいは一斉引き上げもありうる。その場合、市民病院が潰れる事になる。
竹田くんに手術を許せば、そのリスクを回避できる。だが、そうなれば彼はまたやらかす。唯一残された手段は、竹田くんに譲歩しながら、定年までの時間稼ぎをする事だ。
2年後には定年がやって来る。それまでは竹田くんを丁重に扱って手術再開を諦めるのを願うしかない。院長は古荒先生に「今後いっさい彼を注意しなくていいから」と指示する。
竹田くんは、人権派弁護士を使って一歩、院内で領土を広げた。そしてこれからもどんどん彼の領土を広げていくのだ。