脳外科医 竹田くん

あり得ない脳神経外科医 竹田くんの物語

【第78話】試薬強奪事件

市民病院

 古荒先生は、竹田くんにパワハラ暴力医師の濡れ衣を着せられた後も、変わりなく籠り部屋の掃除をし、竹田くんがさぼった分の穴埋めの業務をこなした。竹田くんが来る前よりもずっと大変な毎日になっていた。だが燃え続ける溶鉱炉のように古荒先生の仕事への情熱は冷めることは無く、どんなトラブルが起こってもそれは変わらなかった。

 古荒先生は生粋の脳外科医なのだ。

 一方で、竹田くんは古荒先生を陥れる謀略戦の妄想に憑りつかれて以降、ますます医師としての仕事が雑になった。それが原因で日常業務の各所でスタッフや患者との間にトラブルを起こした。

 試薬の強奪事件はその一例である。ここでも竹田くんはしゃーしゃーとウソをついた。彼のウソが引き起こした院内のトラブルは数知れない。やがて、ウソをつく事が彼の個性のように見なされ、最終的には誰もが竹田くんのウソを咎めることなく受け流すようになっていった。