竹田くんに手術をさせればさせるほど、犠牲者は増えていた。
ところで赤池市民病院の廊下には「恕」という文字がペタペタと貼ってある。
普通の病院であれば、患者へのおもいやりをアピールする宣伝文句となる用語である。だが、赤池市民病院の場合、その意味が180度異なる。
「恕」には「私たちは奉仕者であり感謝されるべき存在」「市民が医療関係者を思いやれ」「医療関係者の責を問うな」という傲慢な意味が隠されている。
実際、異様に医療関係者が医療関係者に甘いのがこの病院の空気であり、古荒医師が竹田くんに甘かったのも、この病院の空気に同調していたからである。
これこそが、長年、医療安全が軽視されてきた事の背景にある思想であり、この病院の患部である。自分たちで自分たちを賛美し、自らに都合のいい思想を作り上げ、国や学会の指導に沿った医療安全のマニュアルも全てのその思想で形骸化させてきたのだ。
「いまどき、こんな医療安全が甘々でコンプライアンス軽視しまくりの病院なんて他には無い。」と竹田くんも感じ取っており、どんな重大な失敗をしても許される赤池市民病院が竹田くんは大好きだった。