
転落事故の後、すぐに竹田くんは市民病院の医師の元に駆けて行き、「古荒先生に突き落とされたってカルテに書いてください!」と頼み込んだ。
竹田くんの待ちに待った好機が巡って来た。
今までは医療事故多発事件の加害者のような扱いの日陰の身だったが、今後は堂々と被害者だと主張できる。そして、ゆくゆくは脳外科の科長の地位さえ見えてきたのだ。
策士の竹田くんだけが、そのための交渉カードを全て握っている事を知っていた。
手術解禁はおろか、科長の地位を狙えるほどのビッグチャンス!竹田くんは野心に燃え始める。

転落事故の後、すぐに竹田くんは市民病院の医師の元に駆けて行き、「古荒先生に突き落とされたってカルテに書いてください!」と頼み込んだ。
竹田くんの待ちに待った好機が巡って来た。
今までは医療事故多発事件の加害者のような扱いの日陰の身だったが、今後は堂々と被害者だと主張できる。そして、ゆくゆくは脳外科の科長の地位さえ見えてきたのだ。
策士の竹田くんだけが、そのための交渉カードを全て握っている事を知っていた。
手術解禁はおろか、科長の地位を狙えるほどのビッグチャンス!竹田くんは野心に燃え始める。

市民病院の階段の踊り場で、医師免許取得者2人が『籠り部屋』の鍵をめぐってじゃれあっている。次の瞬間、竹田くんは足を踏み外す。
身体は医師の資本であり、竹田くんがわざと足を踏み外したとは想像しがたい。だが、古荒医師が故意に押した事は絶対にない。ただ一つ言えることは、この事故が竹田くんにとって願っても無いタイミングで起きた事だ。

山崎先生(脳外チームのメンバー)は、籠り部屋の机の上に毎朝放置されているポテチの袋の銘柄を看護師にささやいて笑い話にしていた。
食べ捨てられたポテチの袋を捨てるのも古荒先生が行っていた。
手術禁止から4か月が経ったが、竹田くんは問題ばかり起こしている。『迷惑系脳外科医』という仇名をつけたくなるぐらいだ。
その日、病院の階段おどり場にて竹田くんと古荒先生は籠り部屋の鍵をめぐって争いをしていた。
古荒先生は、罠に嵌められている事にまったく気づいていなかった。

竹田くんは、古荒先生のデスクのひきだしの中に籠り部屋(脳外科部屋)の鍵を見つける。
ひさしぶりにたっぷりと昼寝をして満足そうな竹田くん。
手術禁止から4か月、ある事件が起こる。その事件の後に起こった悪夢のような出来事の数々は日本医学史上稀に見る狂気を孕んだものであり、赤池市民病院の風土以外では起こりえないものだった。

古荒先生と竹田くんの対立が深まっていた頃、手術室では奇怪な医療事故が起こっていた。
古荒先生の手術途中でいきなり手術室に入ってきた竹田くん。水かけをまかせると、突然、竹田くんのホースが切削中のドリルに当たった。
ドリルの刃は硬膜を傷つけ、その修復には30分を要した。
術後、オペ看からは「あれは絶対にわざとです。」と言われる。

人間だれしもそうだが、竹田くんの内面には2つの人格の葛藤があった。
内面の葛藤は、ポーの「ウィリアム・ウィルソン」、スティーブンソンの「ジキル博士とハイド氏」ら作品の主題ともなった。
竹田くんの内面の葛藤は顕著で、時々、きわめて理性的で人間味あふれる竹田くんの一面が姿を現した。その人格が現れる時、竹田くんは自省的になり、周囲は竹田くんに同情し力になりたいと思った。
だが、危険を顧みず手段を選ばずに突っ走る利己的な一面が最終的には常に勝った。
手術禁止の3ヵ月後、ある報道がなされる。その内容は、竹田くんの利己的な部分が「これだ!」と叫びたくなるような内容だった。

病棟の患者を直接診ずに、籠り部屋から遠隔診断している竹田くんに古荒先生もさすがにブチ切れた。「甘やかしすぎたかも」
次の日、竹田くんが籠り部屋に行くと鍵がかかっていた。竹田くんは激怒する。
その頃から病棟で「うるさいんじゃー!」と怒鳴る竹田くんの姿が目撃されるようになった。また、古荒先生も、本気で竹田くんに対峙していた。緊張が高まっていた。

連日のように竹田くんを呼び出す院内放送が流れ始めた。籠り部屋に籠った竹田くんはそれを無視して籠り続ける。それはまさに手術解禁を求める籠城であった。
籠り部屋から病棟へ患者の処置について指示を出した。患者を診ずに指示をするので看護師から医療安全に苦情が殺到した。
古荒医師は院長から叱責を受ける。「今後は籠り部屋の鍵は古荒医師が管理したまえ」と。

竹田くんは以前の職場でも、自分の居場所を守るために戦った。多勢に無勢でも一歩もひるまなかった。
今回の戦争は、病院の組織権力との闘争となる。竹田くんは圧倒的に不利だ。しかし弱者の立場でも強者と対峙できる勇気を竹田くんは持っていた。
竹田くんは策士である。策士は、頭脳で形勢挽回する。
明智光秀の言葉に「武士の嘘を武略という」という言葉がある。
竹田くんの嘘も知略である。虚偽報告書、数字を自分に都合よく解釈して作成した『脳外チーム 3人の合併症発生率の比較データ』の書類。それらの捏造文書が竹田くんの兵器となる。
脳外科部屋でそんな作戦立案・武器製造に時間を費やしている間に、病棟の現場は大混乱に陥っていた。竹田くんの患者はほったらかしにされていたのだ。看護師の不満は爆発寸前。
いつしか脳外科部屋は竹田くんのせいで「籠り部屋」と呼ばれるようになっていた。
更新履歴: 2023/06/04 21:51 2コマ目右 「弱者だが強者と対峙できる勇気の持ち主」
コマ内容変更に至る作者の心境・・・第97話「ひとり歩むもの」で古荒先生が『勇気』という言葉を発する伏線をここに張っておく。竹田くんには、天安門事件で戦車の列の前に一人立った『無名の反逆者(tank man)』並みの無謀なまでの勇気がある。たった一人孤立しても持てる勇気は、多くの日本人が持たないものであり、竹田くんの強さに繋がっている。

竹田くんは総務課に辞表用紙を取りに行った。そして古荒医師に「書き方を教えてくれ」と聞く。古荒医師が教えようとすると「僕がいなくなってもいいんですか!」と泣きつかれる。これで3度目だ。
古荒医師が「そんなことないよ。」と慰めると、院長への陳情をせがまれる。院長の答えはNO。
竹田くんは平和的手段が有効でない事を悟る。こうなれば戦争するしかない。そのためには武器が必要だ。

すでに赤池市の町中では「すごい医師が市民病院にいる」という噂が広まっていた。噂の内容は荒唐無稽すぎて「そんな医者いるかな?」と部外者には、にわかには信じられなかった。
手術禁止が解けないので竹田くんは焦り始めた。古荒医師は上層部に掛け合ったが「人が死ぬ」という理由で断られた。
外科医が執刀を禁じられることは、侍が帯刀を禁じられる事と同じ名誉の問題である。竹田くんは手術禁止命令を「ハラスメント(嫌がらせ)」と受け取った。

医療安全の杉下は念のため古荒医師に「本当にこの報告書でいいのか?」と確認した。
古荒医師は不安になり、虚偽報告書の虚偽性を指摘した裏報告書を作成した。
赤池市民病院には、2つの異なる内容の医療事故報告書が存在する事になった。それ自体が世間に知られてはマズいスキャンダルだった。だが、脳外科に報告書を再提出させるなどの対応はいっさい取らなかった。
一方で、竹田くんは、虚偽報告書が自分を守ってくれると確信していた。執刀解禁の根拠にもなるはずだ。

竹田くんのとんでもない虚偽報告書を見て古荒医師は激怒するが、「好きにすればいい」と最後には竹田くんに折れてしまう。
事実を元に事故検証をすべき医療安全推進室の森中は事実にはあまり興味が無く「これでいいんじゃない」と病院の正式な事故検証文書として受け入れる。
だが、森中の部下の杉下は念のため院長に虚偽報告書の件を報告する。院長は事を荒立てる事は望まず「これでいいだろう」と承認する。
結果的に、病院全体が竹田くんの医療事故隠蔽の共犯者になってしまった。
この事が古荒医師や病院全体にとってどれだけ危険な行為であったか、この時はまだ誰も気づいていなかった。